頭の中の声
お花屋さんは、結局体力的に続かずに辞めた。
次の仕事が決まるまで2カ月だけ六本木のキャバクラで働いたりした。
この頃には、お花屋さん時代にお金がなく、お菓子で空腹を満たしていたのがたたり、
地元にいたころに比べると、10㎏くらい太っていた。
太ってしまい、かわいい服も着られない、お金もない、夢もない、彼氏もいない、学歴もない、
あんなにモテると思っていたのに、その頃にはそんな自信は全くなくなっていた。
そこからキャバクラで知り合った人に紹介してもらった事務の仕事に就くが、
そこも1年足らずで倒産。
しかしその頃には、心許せる友達ができていた。
その子の紹介で、ブラインドタッチもできなかったのに
IT起業に勤めることができた。
例の彼とは、ほぼ毎日のように電話やメールで連絡を取るようになっていた。
遠距離なのもあり、お互いに付き合うとか付き合わないとかの話はしなかった。
お互いの気持ちを口にすることもなかったが、
毎日連絡を取れることに安心感があった。
何より、会えない距離にいるせいか、
お互いに言いたいことを言い、何の脈絡もなく、将来の話もせずにすんだし、
今日あった出来事を話す家族のようになっていった。
その頃には、IT企業で仕事が楽しくなってきて、友達も増え、
忙しかったが、週3ペースでコンパに行くようになっていてとても充実していた。
彼には、今日コンパで会ったイケメンの話をするようになっていた。
何の関係なのかわからなかったけど、
その距離感が心地よかった。
そんな中、わたしは彼とは別にしっかり東京で恋愛もしていた。
結婚はその彼としたいと思っていたので、
その時が楽しければ基本的には良かった。
なので、彼女がいたり、家庭がある人もいた。
一応、なんとなくそれが嫌ではあるんだけど、
心では例の彼と結婚しようと思っていたので、それでも良かった。
地元に待ってくれている人がいる。
そのことだけがわたしの心の安定剤になっていた。
心と行動がずっと分離しているような、
いつかのために、今をふらふらと楽しんでるような、
ただ、一瞬の楽しみのために恋愛をしているような、
何にもならない時間をかなり長い間過ごした。
わたしの頭の中で、
東京で暮らし始めてから、ずっと聞こえてた言葉がある。
「東京に住む理由は?」
友達や彼氏や本来の家族と離れ、
刹那的な関係で進んでいく時間と
夢を見失い、生きていくために働いていた当時のわたしにとって、
東京に住む理由を、自分が納得のいく説明を探すことに一生懸命だった。
それは、テレビ局のプロデューザーに言われた言葉そのままだった。
当時の彼と別れても、その声はわたしの中で大きくなるばかりだった。
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